病棟や在宅医療の現場において、一度発生すると患者のQOLを著しく低下させ、治療期間の長期化を招く褥瘡(床ずれ)。超高齢社会を迎えた医療現場では、急性期から療養・在宅に至るあらゆるフェーズで「発生させないための先手のアセスメントと個別ケア」が厳しく求められています。日々の記録業務に追われる中で、「標準的なテンプレートではなく、目の前の患者に即した実効性のある計画をどう書けばいいのか」と頭を抱える看護師は少なくありません。
褥瘡予防の要となるのは、客観的リスク評価に基づく的確な看護問題の抽出と、具体的かつチームで共有しやすい観察・ケア項目の言語化です。本稿では、ブレーデンスケールを用いたリスク評価から、そのまま臨床現場で活用できるOP(観察項目)・TP(ケア項目)・EP(教育・指導項目)の実践文例、好発部位のチェックポイント、除圧用具の選定基準までを徹底網羅して解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:褥瘡リスク状態の看護問題は、ブレーデンスケールの客観的スコアと全身状態(低栄養・浮腫・活動性低下など)を連動させて設定する。
- 要点2:OP・TP・EPの立案では「2時間ごとの30度側臥位」「仙骨部の発赤観察」「家族へのポジショニング指導」など、誰が見ても同一のケアが可能な具体性を担保する。
- 要点3:マットレス選定やスキンケアプロトコルは、単独の看護判断にとどめず、WOC(皮膚・排泄ケア認定看護師)やNST(栄養サポートチーム)と連携して最適化を図る。
【看護問題の捉え方】褥瘡リスク状態のアセスメントと看護目標の具体例
看護診断において「褥瘡リスク状態」を挙げる際、単に「寝たきりだから」「高齢だから」という漠然とした理由だけで立案すると、形骸化した計画になりがちです。真に必要なのは、患者個別の外力因子(圧力・ずれ・摩擦)と患者側因子(自発運動能力・皮膚湿潤・低栄養・浮腫・知覚障害)を統合したアセスメントです。
実用的な看護計画を組み立てるための、看護問題および看護目標の具体例は以下の通りです。
【看護問題】
#1. 脳梗塞後遺症による片麻痺と自力体位変換不能、ならびに食事摂取量低下に伴う低栄養に関連した褥瘡リスク状態
#2. 便失禁による仙骨部皮膚の浸軟およびオムツ交換時の摩擦に関連した皮膚統合性障害リスク状態
【看護目標の具体例】
・短期目標(1〜2週間):
「仙骨部・大転子部・踵骨部に新規の発赤やびらんを形成しない」
「皮膚の清潔と適切な湿潤環境が保たれ、排泄物による皮膚トラブルを起こさない」
・長期目標(退院・転院時まで):
「入院(療養)期間中を通じて、全身の皮膚統合性が保持される」
「本人および家族が除圧の重要性を理解し、車椅子座位時の除圧動作や体位変換の意義を説明できる」
【評価基準】ブレーデンスケール評価項目と栄養状態・低栄養アセスメント
褥瘡発生リスクの予測ツールとして国際的にも広く活用されているのがブレーデンスケール(Braden Scale)です。合計得点(6〜23点)が低いほどリスクが高く、一般病棟では14点以下、高齢者施設や療養病棟では15点以下をハイリスク基準として警戒レベルを引き上げるのが標準的です。
評価項目は以下の6つのサブスケールで構成されています。
1. 知覚の認知(1〜4点):圧迫による不快感に正しく反応し、痛みを訴えたり体を動かせるか。
2. 湿潤(1〜4点):発汗、尿・便失禁によって皮膚がどの程度濡れているか。
3. 活動性(1〜4点):寝たきり、車椅子依存、歩行可能などの活動レベル。
4. 可動性(1〜4点):自力で体位を変えたり手足をコントロールできる範囲。
5. 栄養状態(1〜4点):通常の食事摂取量、経管栄養や輸液の過不足。
6. 摩擦とずれ(1〜3点):ベッド上の移動時に生じる摩擦や、ギャッジアップ時のずり落ち傾向。
特に見落としてはならないのが低栄養状態のアセスメントです。血清アルブミン値(Alb)3.0g/dL未満、急激な体重減少(過去1〜3ヶ月で5%以上減少)、BMI 18.5未満の痩せ型患者は、皮下脂肪の減少により骨突出部への局所圧が極大化します。皮膚の引張強度も著しく落ちるため、わずかな摩擦でも容易に表皮剥離を起こす危険領域にあると判断しなければなりません。
【実践文例】褥瘡予防看護計画におけるOP・TP・EPの標準テンプレート
個別性を反映した褥瘡予防看護計画(OP・TP・EP)の代表的な臨床文例を以下に提示します。受け持ち患者の状態に応じて項目をカスタマイズして活用してください。
【OP(Observation Plan:観察項目)】
・皮膚状態の観察:好発部位(仙骨部、大転子部、踵骨部、肩甲骨部、後頭部)の皮膚色(消退しない発赤・蒼白・紫斑の有無)、局所の熱感・硬結・浸軟・乾燥・表皮剥離の有無。
・外力・身体状態のアセスメント:ブレーデンスケールスコアの推移、自力体位変換の可否、骨突出の程度、関節拘縮の有無。
・排泄状況の確認:尿・便失禁の頻度、下痢の性状、オムツ内の湿潤状態。
・栄養・水分バランス:食事摂取割合、水分出納、検査データ(Alb、TP、Hb、BUN/Cre、CRP)。
・医療機器関連圧迫創傷(MDRPU)の確認:酸素マスク・カニューレ、経鼻胃管、尿道留置カテーテル、弾性ストッキング等による局所圧迫の有無。
【TP(Treatment Plan:ケア・治療項目)】
・除圧・ポジショニング管理:
- 2時間ごとの計画的体位変換の実施(体圧分散寝具のスペックに応じて適宜間隔を調整)。
- 側臥位時は過度な側臥(90度)を避け、大転子への圧集中を防ぐ30度側臥位を徹底。
- 背部・膝下・下肢間にポジショニングピローを挿入し、体幹の安定と骨突出部同士の接触を回避。
- ベッドアップ時は背抜き・足抜き(グロービング)を実施し、皮膚にかかるずれ力を逃す。
・スキンケアプロトコル:
- 排泄後は弱酸性洗浄剤を用いて優しく泡洗浄し、皮膚を擦らず押さえ拭きで水分を除去。
- 失禁による浸軟・便刺激から守るため、撥水性皮膚保護クリーム(リモイスバリア等)を仙骨・臀部に塗布。
- 摩擦リスクの高い部位にはハイドロコロイドドレッシングやポリウレタンフィルムを予防的に貼付。
・環境調整:患者のリスク度に応じた体圧分散マットレスの選定・圧設定の適正化、シーツのしわ・たるみの除去。
【EP(Education Plan:教育・指導項目)】
・本人へ、同じ姿勢を長時間続けないよう、ベッド柵やバーを利用した小まめな自己除圧(マイクロシフト)を促す。
・車椅子移乗が可能な患者には、15〜30分ごとのプッシュアップ(または前傾姿勢による除圧動作)の重要性を説明する。
・家族・介護者に対し、身体移動時にシーツ上で体を引きずらない介助方法や、ポジショニングクッションの当て方を指導する。
・皮膚の発赤や痛みに気づいた際は、自己判断でマッサージ(揉む行為)をせず、直ちにスタッフへ伝えるよう説明する。
【体圧分散と皮膚保護】除圧用具マットレス選定と体位変換スケジュールの最適化
褥瘡予防の物理的アプローチにおいて、最も大きなウエイトを占めるのが除圧用具マットレスの選定です。患者のリスクレベルやADLと合致していない用具を使用すると、かえって体動を妨げたり、十分な体圧分散が得られません。
【マットレス選定の基準目安】
・低リスク(自力体位変換が可能・離床傾向):
標準的なウレタンフォームマットレス(静止型)。適度な硬さで寝返りと起き上がり動作を支援。
・中リスク(部分介助・ブレーデンスケール13〜14点):
高機能ウレタンフォームマットレス(静止型・多層構造)。局所の沈み込みと反発力を両立。
・高リスク〜超高リスク(全介助・重度拘縮・ブレーデンスケール12点以下・多発性低栄養):
高機能エアマットレス(圧切替型・スモールチェンジ機能付き)。自動体位変換機能や微小傾斜機能を備えたモデルを選び、局所圧を極小化。
体位変換スケジュールは、一律2時間間隔と機械的に決めるのではなく、「高機能エアマット導入時は3〜4時間間隔へ延長」「皮膚発赤が出現した部位は除圧時間を優先」といった個別設計が求められます。特に頭部ギャッジアップ時は、あらかじめ膝を軽度屈曲させてから背上げを行い、最後に必ず肩甲骨周囲の「背抜き」を行うことで、剪断力(ずれ)の発生を最小限に抑えられます。
【初期兆候を見逃さない】褥瘡好発部位の観察点とDESIGN-R評価基準の活用法
褥瘡は骨突出部に集中して発生します。仰臥位では仙骨部・踵骨部・肩甲骨部・後頭部、側臥位では大転子部・外踝(そとくるぶし)・膝関節外側、座位では坐骨部が最大の好発部位です。
毎日のケア時に最も警戒すべき初期兆候は「消退しない発赤(ステージI/深さd1)」です。指で発赤部位を3秒間軽く圧迫して離した際、白く変化したのち赤みが戻る「消退する発赤(毛細血管の拡張)」であれば可逆的ですが、圧迫しても赤みが消えない場合は、すでに皮下組織の虚血性障害が始まっています。この段階で絶対に患部をマッサージしてはならず、直ちに完全除圧を行わなければなりません。
万が一、皮膚損傷が発生した場合には、日本褥瘡学会が策定したDESIGN-R®(デザインアール)評価基準を用いて重症度を数値化し、経過を追跡します。
・D(Depth:深さ):d0(皮膚損傷なし)〜d5(関節腔・骨の露出)、DTI(深部組織損傷疑い)、DU(判定不能)
・E(Exudate:浸出液):なし〜多量
・S(Size:大きさ):長径×短径(cm²)
・I(Inflammation/Infection:炎症・感染):局所の発赤・腫脹・熱感、全身発熱の有無
・G(Granulation:肉芽組織):良性肉芽の割合
・N(Necrotic tissue:壊死組織):壊死組織の有無と硬さ・厚み
・P(Pocket:ポケット):ポケットの大きさ
リスク段階からDESIGN-Rの観点を頭に入れて観察を継続することで、わずかな皮膚の変色や硬結も見落とさず、深部組織損傷(DTI)の兆候を早期に捉えることが可能になります。
【現場の難所を突破】褥瘡ハイリスク患者ケアと多職種連携の実態
重度の心不全による浮腫、末期がんによる悪液質、重度認知症による拒絶など、標準的なマニュアルだけでは太刀打ちできない「褥瘡ハイリスク患者」のケアには、看護師単独ではなく多職種連携(チーム医療)が不可欠です。
皮膚が脆弱化してテープかぶれや表皮剥離を繰り返す場合は、皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCN)へ早期にコンサルテーションを行い、最適なドレッシング材の選定や局所保護のアドバイスを受けます。また、血清アルブミンや総タンパクの低迷が続く症例では、管理栄養士やNST(栄養サポートチーム)と協働し、高タンパク・高エネルギー補助食品や亜鉛・ビタミンC・アルギニンを強化した褥瘡予防用濃厚流動食の導入を検討します。
リハビリテーション専門職(理学療法士・作業療法士)とは、車椅子シーティングのクッション選定や拘縮予防のポジショニングをすり合わせることで、「看護ケア+リハビリ+栄養管理」が三位一体となった盤石な褥瘡予防体制が完成します。
【褥瘡リスクの看護計画】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:ブレーデンスケールの採点はどのくらいの頻度で見直すべきですか?
A1:一般病棟では入院時、転棟時、状態変化時(発熱、ADL低下、手術後など)に加えて、少なくとも週1回の定期再評価が推奨されます。状態が安定している療養病棟や在宅でも、月1〜2回または全身状態の変化に応じた柔軟な再アセスメントが必要です。
Q2:仙骨部に「消退しない発赤」を発見した直後の初期対応は?
A2:直ちにその部位への直接圧迫を中止し、30度側臥位やクッションを活用して完全除圧を図ります。患部のマッサージは組織破壊を悪化させるため禁忌です。微細なずれを防ぐため皮膚保護フィルム等の貼付を検討し、主治医やWOC看護師へ報告して看護計画(体位変換スケジュールやマットレス圧設定)を即座に修正します。
Q3:皮膚が弱くテープを貼るだけで表皮剥離を起こす患者への対策は?
A3:シリコン系粘着剤を使用した刺激の少ないドレッシング材やテープを選択します。また、テープ貼付前に皮膜形成スプレー(被膜保護剤)を塗布して皮膚表面をコーティングすることや、剥離時はリムーバー(剥離剤)を用いて皮膚を引っ張らずに水平に剥がす手技の徹底が極めて有効です。
まとめ:個別性を捉えた迅速な予防介入が患者の皮膚を守る
褥瘡リスクに対する看護計画は、単なるカルテ上の形式的な記録ではなく、チーム全員が患者の皮膚を24時間体制で守るための「具体的な行動指針」です。ブレーデンスケールや栄養指標に基づいた客観的アセスメントを土台に据え、実行性の高いOP・TP・EPを明文化することが、ケアの質の担保につながります。
骨突出、皮膚湿潤、栄養低下、ずれ力といった複数のリスク因子に対し、マットレス選定・ポジショニング・スキンケア・多職種連携を連動させた先手のアプローチを継続することが、患者の苦痛を防ぎ、尊厳ある療養生活を支える確固たる力となります。 (出典: 褥瘡 リスク 看護 計画(Yahoo!ニュース))